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「しかし、まさか文化祭で尚斗のメイクをした奴が彩斗の双子の弟だったなんてな。世間は狭い」
「俺さ、気になってたんだよね。他のミスコンに出た人はメイクそんなに上手じゃないのに、一年だけすごいクオリティが高かったって聞いたからさ。校内新聞見た時も思ったもん、うわ~尚斗綺麗だなって」
「……その話はもういいから」
「オレらは月冴にやってもらったけど、他のクラスでそういうの得意なヤツの話って聞いたことなかったもんな?」
空になったティラミスのカップを脇に避けて、昭彦とトモちんが「ねー」と頷き合う。
いっぽうの姫は、当時のことを蒸し返されるのが嫌なのか、背中を丸めてテーブルに突っ伏した。
「そりゃ普段はやんないからね。男子校でわざわざ「メイクできます!」なんて話することもないでしょ。俺だってスキンケアはするけどさ、日常的にメイクするわけでもないし?」
「たしかにね~。でも黎斗がメイクしたってなんか納得できるかも。だって見るからにオシャレだもん。そのくらいできそうっていうか」
イスにはかけず、立ち姿勢でテーブルに寄り掛かるようにしていた俺のことを、座ったままつま先から頭のてっぺんまで見上げたトモちんがそんな風に言う。
制服のスラックスにウォレットチェーン、派手なカラーリングのパーカーにピアスにメンズデザインのネックレスに二色のヘアピン、ヘアセット済みの短髪──校則違反だらけのスタイルだけどそれなりにこだわりを持ってるから、褒められたら嬉しいに決まってる。
「アヤ聞いたー? トモちんが俺のこと〝オシャレ〟だってぇー」
「曇狼、あんまり褒めると黎斗が喜ぶから褒めなくていいよ」
カウンター越しのキッチンで洗い物をしている英治さんの横で食器を拭きながら、アヤが困ったような声で言ってくる。
優等生で模範的な生徒代表みたいなアヤからしたら、派手な見た目で制服もマトモに着ない俺なんて褒められたモンじゃないんだろう。
耳にタコができるほど聞かされた小言の数々を思い出す。アヤが風紀委員会に入ってなくてほんと良かった。
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