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「それでぇー? 今回は〝なにチョコ〟なわけ?」
「ぐっ……りょうへぃ、重い」
さっきまで太鳳先輩たちと喋っていた亮平が足取り軽く寄ってきたかと思えば、いまだにテーブルに突っ伏している姫の背中にのしかかる。
「ちょっと、尚斗の中身が出ちゃう」
「いや中身は出ないだろ」
「マジで重い……」
マイペースっていうか、これがこの子たちのペースなのかと思ったら、ちょっと面白い。
呻く姫の背中から亮平を離すと、ノロノロと姿勢を正して、「コホン」と咳払いして息を整える。
「……あの、なんだっけ? 丸いやつ」
「トリュフチョコ?」
「そうそれ」
「自分が作ったモンの名前くらい覚えとけよー」
亮平が茶化すように言うと、姫が口をへの字にする。
言い難いし、丸いやつでも通じるから間違ってないけど。ちょっと格好はつかないよね。彼氏しっかりしなよ。
「生チョコを作った時は誰も監督する人がいなかったから。でも今回はみんなが見てくれたし教えてくれたからちゃんとできた。バレンタインのやり直しをさせてほしい」
さっきまでのゆるい雰囲気はどこへやら、姫はえらく真面目な顔をしてトモちんを見つめた。
こんなに真剣な眼差しで真っ直ぐ見つめられたら、女の子ならキュンってしちゃうんじゃないかな……って、トモちんもまんざらでもないのか。
キョトンとしたのは一瞬で、自分のことを見つめてくる瞳を同じように見つめ返して微笑んだ。
「なんか、嬉しいな。尚斗がそうやって想ってくれるの」
「……だって好きだから、さ」
「──ッ、……うん、俺も好きだよ」
満面の笑顔を見せるトモちんを見て、姫も薄っすらと笑顔になる。
見てるこっちがムズムズするくらい、青春してるなって感じのふたり。
取り巻く空気は春のひだまりみたいで、なんだか聞かされてるこっちまで暑くなってきた……。
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