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理事長室に着いた。来る途中、他の生徒とすれ違うことはなく無事にたどり着くことができた。
まぁ梓馬とは一言も会話はなかったんだけども。
コンコン
「坂本です。転校生連れてきました」
中からのどうぞという声を聞いてから扉を開けると、視界の隅を黒い物体が動く。真っ先に梓馬が理事長へと走り出していた。
「久しぶり!透さん!」
梓馬が理事長に抱きつく。抱きつかれる衝撃や、近距離での大音量を聞いた理事長は少し眉を寄せてしまっている。それでも、口元には笑みを浮かべている所は、さすが大人だなぁと思う。
「なぁなぁ、透さん!!コウは?コウはいないのか!?」
「まあまあ落ち着いて梓馬くん。あ、坂本くん、ここまでありがとうね。あとは大丈夫だから教室に戻ってくれて大丈夫だよ」
うるさい梓馬を相手にしながらも、こちらを気遣ってくれる。
ここはお言葉に甘えて〜
「わかりました。では、失礼します」
廊下に出ると理事長室から「だから!チカゲって呼べよな!」って声が聞こえる。
すごいな、外まで声が聞こえてくる…どんな声帯してんだ?アレを相手にして理事長はよく耐えられるな…
理事長のことは心配ではあるが、俺がもう梓馬とは関わりたくはないので、足早に教室へと戻る。
この学園の理事長である城崎 透は、過去最年少での理事長らしい。昔の学園に比べ、方針やら何やらが大きく変わったのは、現理事長のせいだとか。
その前の理事長がよくない事をいくつも犯し、その頃の学園は今の生徒主体主義とは違い、完全に位の高い生徒が権力を持っていたという。その時の現理事長は、そんな学園を変えるために立ち上がった生徒たちを陰ながら支え、学園の変革に携わった1人だった。それで、今こうして平和(?)な学園生活が送ることができている、という感じらしい。
正直、この話は学園内の有名な噂の1つで、これが本当かどうかはわからない。しかし、威厳や普段の仕事から信用に足る人物であることに変わりはない。
理事長とは俺が一方的に知っているという感じだ。理事長の息子と俺がよく遊ぶ仲だからだが、息子の方は知らないらしい。どこかの学校の理事長であることは知っているが、それが日本一の城崎学園だとは少しも思っていないようだ。
確かに城崎という名はそこまで珍しくはない。現に担任も城崎だし…だからといって、あまりにも親の仕事に興味が無さすぎるとは思う。
ま、俺が知ってるのは情報だけだ。人の家庭環境なんて、他人が想像してわかるようなもんじゃないな。
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