すべて、ネズミ

5/17
前へ
/91ページ
次へ
「こんな道路のど真ん中でなにやってんだ」  リーダーはアジトに向かう途中だったようだ。 「あぁ?ハートとの喧嘩?別に買うぐらいは構わないが、道路でするもんじゃねえ」  街に迷惑をかけるな精神はこの人がリーダーになってから、前より徹底されるようになった。守らなかった者は、リーダー直々に制裁されるとか。 「もう喧嘩終わってるじゃねえか。ほらさっさと散れ」  え?と思い中心を振り返ると、ハートの奴の屍だけが落ちていた。スペードの奴の姿はどこにも見えない。 「どこ行ったんだ?お前見てたか?」 「いや、全然。あんな互角だったのに一瞬目を離したすきに倒せるってことは…」 「あの小さいヤツは力を隠していたと」  その場で野次馬をしていたやつらは皆首を傾げていた。  一瞬のうちに倒してどこへ行ったのだろう?どうして誰も見ていないのか。そこまで実力のあるヤツが、この実力主義のスペードでなぜ無名なのだろう?  再びリーダーから発せられた言葉に、そこにいた野次馬はどんどん散っていく。わずかな疑問はその場に残して。  しかし、同じようなことがその後も何度も続いた。 「またハートの屍が落ちてたらしい」 「今日で何回目だ?」 「それもまた小さい奴が倒したんだって?」 「あぁ。その場にいた奴らは皆目撃している」 「でも誰も見覚えはないんだろ?」 「アイツは何者なんだ?」  何度かハートとの喧嘩の情報が入って来るが、見に行った頃には屍だけが残っている。その場にいた奴らは相手がどこに行ったのか誰も見ていない。また、ハートには喧嘩をだけじゃないらしく、頻繁に目撃情報が入る。結局は逃げられるが。  そんな無名の話はすぐに広まり、喧嘩だけでも一目見ようと皆が探し始めた。 「すごいな。いくらハートとはいっても、アイツらは別に弱いわけじゃない。そんな相手と頻繁にやり合って未だに無敗」 「無名なのが本当に不思議だな」 「それにかなり数がいるスペードが探し回って見つからないとは」 「…サーカスみたいだな。この街の皆が探しているのに見つからない」  半年前からどのチームも探しているが、中々見つからないサーカス__ 「そういえば、サーカスも最近姿を見せたらしいな」 「そうそう。姿を見せたかと思ったらチーム二つ消すし、レベルが違ぇよ」  サーカスなんてただの噂だと思っていた奴らも多かっただろう。でも、リーダーからの命令だから探していた。そんなとこか。  そしてやっと見つけたと思えばチームを潰していて…サーカスにしかできない芸だ。 「サーカスだけにってか」 「いや、心読むのやめようか」
/91ページ

最初のコメントを投稿しよう!

211人が本棚に入れています
本棚に追加