すべて、ネズミ

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下っ端 side  昨日までの騒がしさとはうって変わり、今日はただただ平和である。あんなに混乱していたのが嘘のように、いつものスペードに戻ったみたいだ。  一日目、二日目の無名の正体は未だにわかっていない。小柄という情報だけで見つけるのは、いくら人の数の多いスペードでも限界があった。他県の強い奴が、たまたまここに来て喧嘩していったのだろう、と完結している奴が多い。まぁもう現れないのならどうでもいいのだが…  三日目の喧嘩の多発は、喧嘩自体は幹部たちの動きによって収まった。しかし、何故そんなことをしたのか、どうやってしたのか、については解決していない。互いが身に覚えのないのだから当たり前だろうな。  ぼーっと辺りを歩いていると、最近見ていた姿を見つける。出会った時と変わらず、ゆったりと、辺りを散策しているかのように歩いている。近づけば、思ったより小柄で、色白で、かなり弱そうに見える。  何気に顔はいいからなぁ。最初に会った時はこんな奴がここにいて大丈夫なのか心配になったな。  ま、彼と知り合ったのはGW直前のことだし、語れるほど仲良い間柄ではない。 「よ、昨日は無事だったみたいだな」 「やぁ。当たり前だよ。これでも喧嘩はできる方だ。それより、今日は平和なようで何より」 「あぁ。昨日までの混乱が嘘みたいに、今までのスペードの平和さだ」  すると、彼はふふっと笑う。何だ?と聞いても、何でもないと流された。 「うーん、無名くんの正体気になるなぁ」 「あーわかる。ずっとモヤモヤするんだよな」 「今リーダーが不在のハートが問題起こすことがなかったのは、無名のおかげらしいし、他県の奴ならハートばかり集中して狙うかなぁ?」 「だよなぁ…ん?ハートのリーダーは今不在なのか。よく知ってんな」 「まぁね」  会話はそこで途切れ、沈黙が訪れる。そこで、ふと用事を思い出したらしく、彼が声をあげる。 「あ、君に伝言。 『スペード狙うのもアリだけど、俺の相手もしてほしい。サーカスの笑うピエロより』 だって。一時にあそこの廃工場に集合らしい」 「…は?」  彼は白く細長い人差し指で遠くの工場を指さして言った。そして、コチラを見てにこりと笑う。 「あ、さっき笑ったことだけど、君、最近入ったばかりなのにスペード語ってて面白いなぁって思ってさ」 「…」 「それじゃあ、ちゃんと伝えたから」 「あ、おい!待て!!」  驚きで唖然としていたせいで、彼を引き止めることができなかった。  なぜ、バレたのだろう?
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