不仲な二人

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不仲な二人

掃除時間。愛理は、箒でゴミをはいていた。 「ねぇ、早くちりとり持ってきてよ。」 愛理は、目の前にいる啓介に告げる。すると、啓介は俯いたまま。 「わかってるよ。」 とだけ答えた。わかっていると言っているのに取りにいかない。愛理は顔を思いっきり顰めた。 (あぁ、もう!そういうところが嫌いなのよ。ちょっと顔が良くて、ちょっと女子にモテるからって何やってもいいのか。) と心の中で毒づく。自らちりとりを取りに行きゴミをはいている啓介の前に突き出す。すると、おとなしく受け取り床にしゃがんだ。 「もうすぐ、小学校も卒業だな。」 「だから?」 俯いたまま、話す啓介にいつもの通り、冷たく返す。愛理は、啓介が持っているちりとりにどんどんゴミをはいて入れてゆく。 「結局、ずっと同じクラスだったな。」 「えぇ、そうね。」 愛理はまた素っ気なく返した。 (そういえばそうだったなぁ。結局、コイツとは一度もクラスが離れなかった。) 啓介とは、幼稚園の年長からずっと同じクラスだった。つまり7年間クラスが離れなかったのである。愛理の小学校は毎年クラス替えをするのにも関わらず。腐れ縁とでもいうのだろうか。席が近いことも多かった気がする。 ありきたりな話だが小さい頃は、愛理がいないと何もできない泣き虫だった。 小さくて、時には女の子にも間違えられていた。その度に泣く啓介を愛理が慰めていた。 (あの頃は可愛かったのに。) 小学校に入学すると、啓介は一気に成長した。滅多に泣かなくなったし、愛理がいないと何もできない、ということも無くなった。それどころか、愛理とあまり話さなくなった。 (多分、そこら辺から仲が悪くなった。) 算数の授業中に、愛理が小さな声で呟いたのを隣の席の啓介がひろい、大きな声で発表して、先生に褒められることがしばしばあった。褒められた啓介は嬉しそうにしていたが、愛理は自分の答えが盗まれた、と思い悔しくなった。 体育の授業では、男女の差か幼稚園の頃はさほど変わらなかった50メートル走のタイムが、一気に離された。啓介は、愛理の方が遅いと知っていて何度も笑顔で報告してきた。愛理にはその笑顔が自分を下に見ているように思えた。 啓介はいつの間にか変わってしまったようだった。前は、一緒に遊んでいたのに。前は、優しかったのに。 そして、愛理もいつの間にか、啓介に嫌悪感を覚えていた。 それからというものの、愛理と啓介はクラスの中で不仲な二人、というポジションに置かれた。最初の方は、付き合ってるんじゃないか、とか足が地につかない話も多かったがそんな話が出るたびに顔を顰め、相手の悪口を言っていたらだんだんと無くなった。 啓介にとっても愛理は嫌悪感を抱く存在になったらしい。面と向かって、嫌いということもあれば言われることもあった。 そうして不仲なまま、時は過ぎもうすぐ小学校卒業になった。 「卒業ねぇ。」 「あぁ。」 やはり、嫌いな奴とは会話が続かない、と愛理は思う。 「なぁ、」 啓介がやっと頭を上げた。 「何?」 愛理は、啓介を見据えて答える。同時に箒をはく手が緩やかになる。 「ええっと、あのさ。」 啓介が、首の後ろを掻きまた俯く。 愛理の目がまた鋭くなった。 「だから、何?」 「卒業しねぇっ?」 啓介が俯いたまま、呟いた。 「はぁっ?卒業するわよ。当たり前でしょ、馬鹿にしてるの?」 愛理は、啓介の質問に顔を顰めながら答える。 (やっぱり、嫌い。) そう思いながら、また手を動かし始めた。 すると、焦ったようにガバッと啓介が頭を上げたのが視界に入った。 「そうじゃねぇ。だから、だからそのっ!」 愛理は、啓介を無視してゴミをどんどんちりとりに入れる。 「俺らの不仲を、卒業しねぇ?」 「はっ?」 愛理の手が止まった。あまりにも、唐突なその言葉に愛理は啓介を見つめた。啓介の頬はほんのり赤く色づいていた。 「ど、どういうこと。」 愛理が、啓介から目を逸らしながら聞く。愛理の顔は、まるでうつったように赤くなっていた。 「だから、付き合おう。俺ら。」 愛理の血が顔に上っていく気がした。 (何で、何であんたが。) 算数の時間は、大声で話せない自分に代わって先生に伝えてくれてたって、体育の時間は、早く走れなくなった自分を慰めてたんだって、気づいてた。気づいてたのに、そんな啓介から顔を背けた私を何で。 (それでも、あんたのことがずっとずっと) 「私だって、ずっと好きだったのよ!」 蚊の鳴くような声で呟いた。それを、聞き逃さなかった啓介は、箒を掴んでいた愛理の腕を引っ張って、耳元で、 「俺の方が、好きだって。」 と囁く。愛理の頬がさらに赤くなる。 (これ夢じゃないよね?) もう片方の手で頬をつねったが、目覚めそうになかった。 「あぁもう!そういうところが大好きなのよ!」 愛理はもうどうなでもなれ!と叫ぶのだった。
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