潜入捜査

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「普通の人は一筆で描けるなんて知らないのに。あ、愛さんは普通じゃないですものね」  桜はホホホとお上品に笑っている。酷い言われようだ。私が普通じゃないだって? 「やはりこの模様が結界を表すとご存知なんですね。さすがです」  落としてから持ち上げる。人たらしの定石だ。お嬢様に見えて案外強かなのかもしれない。 「お邪魔してます。綺麗にされてますね」 「ありがとうございます。でも私1人だと行き届かない所が多くて。お恥ずかしい話です」 「他に神職さんはいらっしゃらないんですか?」 「はい。基本的にいつも父1人です。早く私が戻って来られればいいんですけど」  小さい神社と言っても普通の家の庭に比べたら何倍もある。毎日掃除するのは大変だろう。 「来てくださる方に気持ちよく参拝していただけるように、掃除だけはしっかりしておけと父から言われてます」  そんな言葉を聞くと清く正しい神社の親子に見える……いやいや、騙されてはいけない。こいつらは嘘つき親子なんだ。
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