エベレストにて

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「ほら、女の子は体冷やしちゃいけないよ」  人の良さそうな精悍な顔をした外国人のオジサンだった。きっと母国語で話しているのだろうが、幽体同士、何故か言葉は通じてしまう。 「ありがとうございます。ではお借りします」  登山用のしっかりしたカッパは風を防いでくれてあったかかった。 「ずっと救助を待っていたんですか?」 「はい。いつか必ず来ると信じてました。ありがとう」  安心し涙を流す遭難者さん。その雫は一瞬で凍りついた。 「お迎えがみえてますよ」  私は空を指差した。そこには空へと続く光の階段があり、天使たちが両手を広げて男性が上って来るのを待っていた。 「また登るんですか。下に降りたかったな」 「でもご家族も上で待っていますよ」 「そうですか。なら上らなきゃ」  男性はすっくと立ち上がり服に付いた雪を払った。 「ありがとう、お嬢さん。分かってはいたんですが、それでも誰かに見つけて貰いたかったんです。こんなに酷使した体を置いて行くのが忍びなくて」 「丁重にお弔いさせて頂きます」 「ありがとうございます」  男性は深々とお辞儀をし、空への階段を上り始めた。
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