エベレストにて

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「あ、ひとつ聞いてもいいですか?」 「何でしょうか」 「あなたは何故山に登ろうと思ったんですか?」  男性は光に負けないくらいの笑顔で答えてくれた。 「山でしか育たない花、植物を見るのが趣味なんです。凄く可愛くて逞しいんですよ。さすがにエベレストにはなかったけど」  男性は光と溶け合い消えて行った。なんともロマンチックな理由に周りを見回した。しかし周りは雪と氷に閉ざされた世界だった。もっと低い山で高山植物を見て満足しておけば良かったものを。でももしかしたらエベレストにも何か咲いているかもしれない。それを男性は確かめずにはいられなかったのだろう。 「お〜い、俺も助けてくれよ」  背後から野太い声が聞こえてきた。 「上から落っこちて足の骨を折っちまったんだ。痛くて動けないんだ」  私はすぐに男性に近寄った。ヒゲモジャで表情は全く見えなかった。ヒゲさえも凍りついていた。 「何処痛いんですか?」 「ここだよここ。バキッて音がしたんだ」  男性は膝の辺りを撫でながら言った。
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