エベレストにて

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「ありがとうよ、これでやっと頂上に行ける」 「頑張ってください!」 「おう!」 「最後にひとつだけ教えてください」 「なんだ?」 「何故山に登るんですか?」  男性はモサモサのヒゲをひと撫でして言った。 「俺は昔っから頭が悪かったが体力だけはあった。母親から山でも登ったらって言われて登ったら周りから褒められた。バカにされてた俺が褒められたんだ。そりゃ嬉しかったねぇ。それからバカの一つ覚えみたいに登り続けてるってわけだ」  そう言うと男性は力強く氷壁をよじ登り始めた。  褒められたかったから。それが男性の答えだった。他には何も取り柄のない自分が唯一人から認められる事。それが登山だったのだ。  みるみるうちに男性は氷壁を登りきり山頂へと続く尾根に立った。そして確かな歩みで一歩ずつ進み、遂に頂上に辿り着いた。 「ヤッター! 遂に来たぞ!」  両手を高く空に突き上げた。そしてその姿のまま男性は空へと上って行った。
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