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神社の鳥居はくぐらず、裏口から桜の家に入った。家と言うか、社務所の奥が桜家族の住居だそうだ。
夜の神社は物騒だ。神様はもう休まれているようだ。怪しい気配が闇の中に蠢いている。
「自分の家ながら夜の雰囲気には慣れないわ。愛さんなら分かりますよね?」
「はい。普通の闇よりもっと暗い、まさに漆黒ですね……」
何者かが闇の中からこちらを伺っているのが分かる。神社は聖域だが夜は別の顔を持つ。なるべくなら、いや極力近寄らない方が良い。
「神社の中で暮らすって大変そうですね」
「普段は普通の家と同じ生活をしています。でも辛かったのは母が亡くなった時でした。お父さんは穢れるからと死に目にも会えず、葬儀や埋葬には参加しませんでした。なので私が喪主をしました」
「え……そうなんですか……」
神職さんも大変なんだ。妻の死に目にも会えず葬儀にも参列できないとは。宗教によって様々だ。
「まあ狭い家ですがどうぞ」
家に入らせてもらった。こんな夜遅くゾロゾロと……。
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