神社の夜

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「カッコいいなぁ。女性神職憧れちゃうな」 「代われるものなら代わって欲しいわ」 「え?」  桜が桜色の唇をすぼめてそう言った。 「私だって髪を染めてみたい。パーマもかけてみたいしベリーショートにもしてみたいわ」  それはそうだ。桜だって年頃の女性。流行りのオシャレもしてみたいだろう。それなのに修行に明け暮れ、神職だから髪型も自由にできないなんてちょっと可哀想だ。 「まあうちが神社じゃなかったら神職にならなかったし陰陽師に弟子入りもしなかった。だからこれが私の運命だったのだと思うの」  桜は"運命"と言った。先輩と出会ったのも運命と言いたいのか。先輩と一緒になることも運命だと言いたいのか。 「運命は変えられます。自分で切り拓くものです」  私の言葉に桜色はふっと笑った。 「一般家庭ならそうでしょうけど、私や大和は産まれた時から将来は決まってるの」   確かに高校時代先輩は親と同じ書道家になりたいと思っていた。しかし叔父さんに跡取りがいなかったので陰陽師になることになった。これも定められた運命なのだろうか。私みたいに受け継がなければならないものがない一般家庭に産まれた人間とは住む世界が違うと言いたいのか?
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