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「でもなりたくないわけじゃないのよ。誰にでもなれる職業じゃないし伝統を守る仕事には誇りがある。私が継がないとこの神社は他人の手に渡るか無人になってしまう。そんな事になったら神様の行く末が心配だわ」
「そうですね。今まで手厚く祀られていた神様も困っちゃいますよね」
「そうなの。特にうちの神様は……」
「え?」
「いえ、何でもないわ」
元々人間だった者が死後神として祀られている神社はたくさんある。晴明神社しかり、日光東照宮しかり、天満宮しかり。それは生前偉業を成した人物を崇め神として祀った神社と、怨みを持って亡くなった人物が祟を起こさないように鎮めるための神社の2種類がある。
この神社の主祭神は蘆屋道満。道満はこの世に怨みや未練を残して死んでいった事だろう。だとしたらこの神社は道満の怒りを鎮めるための神社。それが跡継ぎがいなくなり神主不在になんてなったらどうなってしまうのだろうか。考えただけでも恐ろしい。
いや待て。道満の怨みの矛先ってもしかしたら清明? だとしたら……。
「先輩が危ない!」
私は衣装部屋を出て慌てて茶の間に戻った。
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