本番!

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 突然床の間の掛け軸がくるくると巻かれ上に持ち上がった。すると床の間だと思っていた壁が中央から左右に分かれた。開かれた壁からはドライアイスの煙がこれでもかと流れ出てきた。そこに虹色のライトが当たり、まるで虹の上の天国のような雰囲気を醸し出していた。  テレビって凄いと改めて思った。と感心していたのも束の間、煙が引いてくるとそこには真っ赤な狩衣に紫の袴をはき、頭に冠を載せた桜が現れた。凛としたたたずまい、決意に満ちた瞳、真一文字に結ばれた唇。そこだけ神聖な空間が出来上がっていた。 「我らが救世主、陰陽師の河津桜さんです! どうかこのスタジオの異変をお鎮めください」  アナウンサーは桜に手を合わせ拝んでいた。よっぽど恐怖を感じているようだ。  スッと桜は一歩前に出た。かすかに衣擦れの音と冠の金具の音がした。桜は観客席を凝視しフッと眉をひそめる。そして意を決したように右手を差し出した。するとそこへ白い狩衣姿の男性がササッと現れ桜に大幣(おおぬさ)と呼ばれるお祓いに使う棒を渡した。  あれ、先輩じゃん。桜の下僕になってるじゃん! あれ〜!  桜は受け取った大幣を振り上げ、右、左へと振った。そのたびに棒の先についているふさふさした紙の束がバサッバサッと音を立てる。ふさふさが揺れるたびに幽霊たちは「ひ〜」とか「ひゃ〜」とか言って結界内を飛び交っていた。
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