本番!

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 道満は確かに親子の面倒をみてくれた。優しくしてくれた。しかしそれは贖罪でしかなかった。家族として愛していたわけではなかった。他人行儀な道満に恩を感じながらも都で活躍している清明の噂を聞くたびに気になってしまった。父はどんな方なのか。どんな顔をしているのか、どんな声をしているのか……。  しかし道満の手前会いには行けなかった。母を看取り道満を看取り、やっと清明に会える。会ったら文句を言ってやろう。  しかし時既に遅し。既に清明もこの世の者ではなかった。  やるせない想いが恨みつらみとなり心を閉じさせた。そして死してなお、清明への想いを募らせていたのだ。 「本当は寂しかったのだと思います。口寄せの間中切なさで胸が張り裂けそうでした」  鮪子さんはほろほろ涙を流しながら語ってくれた。 「やはりお辛い思いをされていたのですね。私が持ち帰って愛情を込めて祈祷させていただきます」  桜は鏡を抱きしめ、まるで聖母マリア様のような慈しみ深い顔をした。 「その必要はありません」  私はきっぱりと言い切った。 「そこにいらっしゃるじゃないですか。清明様が」  私は先輩を見た。
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