真相

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 前社長は華さんをとても愛していた。しかし他の人と結婚するという。 「結婚は家のためだ。テレビ局の社長でいるためには仕方のないことなんだ。でも愛しているのは華だけだよ」  それは本当だった。前社長は華さんにマンションを買い与え自らも毎日のように通ってきていた。そして華さんに子どもができる。とても喜んでくれたそうだ。  しかしいつまで経っても本妻との間には子どもができなかった。華さんとの間にはできたのでどうやら妻の方に原因があるらしい。しかしテレビ局のためにありとあらゆる手段を用い、何とか結婚できた政治家の娘だ。子どもができないからといって別れるわけにはいかない。 「この子を僕たち夫婦の子どもとして育てるよ。そうすれば華も女優業に打ち込めるだろ?」  そんな事を言い出した。しかし当然ながら華さんは断った。子どもと離れて暮らすなんて考えられなかった。 「じゃあうちで一緒に暮らそう。女優を辞めてうちのお手伝いさんになればずっと子どもと一緒にいられるよ」  前社長は無邪気にそう言ったそうだ。好きな人とも一緒に暮らせて一石二鳥だと喜んでいたという。  ワガママなお坊っちゃんなのだと華さんはやっと気付いた。気に入った物は何でも手に入れたいのだ。権力者の娘である嫁も、女優で美しい愛人も、そして跡取りとなる息子も。
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