出陣!

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「今日は社長呼んでないはずです。もうお帰りになりましたよ」  特番の事など忘れてしまったかのような冷たくつっけんどんな態度だった。でも社長がいないなら好都合だ。 「今日は特番の時のお礼を言いたくて来ました」 「お礼? 社長に?」 「いえ秘書さん……柳生さんにです」 「あらそう。はいはい。もう用は済んだでしょ。お疲れ様でした」 「いえ、あの……聞きたい事があって」  秘書さんはメガネの奥の細い目を尚更細めて私を睨んだ。 「見て分かるでしょ。私は今仕事中です。早く終わらせたいの」 「すみません! ……待っていてもいいですか?」  悪いとは思うが素直に引き下がっていては何も進まない。話が聞きたい。 「……じゃあ勝手に待ってなさい」  そう言うと秘書さんは目にも止まらぬ速さでキーボードを叩き始めた。超高速タイピング、これぞプロの技! まるでラ・カンパネラを弾くが如く指はキーボードを叩き続けた。 「ふう……」  秘書さんは静かにキーボードから手を離した。時間を忘れて見入ってしまった。 「ブラボー! これぞ達人。凄いものを見せてもらいました」 「……私音大でピアノ専攻してたのよ」 「マジですか!」  人に歴史ありである。
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