決戦の金曜日

13/21
前へ
/468ページ
次へ
「もうやめて。こんな事して何になるの?」 (お前こそやめろ。私の邪魔をするな!) 「あなたはもう死んでるのよ。この世にいたって苦しむだけ。成仏して楽になりましょう」 (楽? 楽しようなんて俺は思っていない。人生は苦行なのだ。それを乗り越えてもまた苦行が訪れる。それを乗り越え続け強くなるのだ。楽をしようなどと怠惰な考えを持つ現代人こそが罪人だ。俺が教えてやらねばならぬ)  ある意味筋は通っている。いやいや怨霊に説得されてどうする。 「人間は生まれる前に自分が人生でなすべき事、乗り越えるべき壁を設定し、それから生まれて来るんです。決して楽だけを設定して生まれる事はありません。人生は魂の修行の場なのですから。そしてそれを何度も繰り返して魂を浄化させるのです」  私は満明に輪廻を説いた。 (何を言う。人間は死んだら神になるのだ。生まれ変わりなど無い)  神道に輪廻思想はなかったっけ! 失敗! 「か、神なら人々の暮らしを守るもの。生贄を欲するとか、そんなの神じゃない」 (少数の生贄で大勢の人間が救われるならそれは正義だ。神は正義を貫くのだ) 「大勢の人間が救われる? そんなわけないじゃない。1人の人が死んだら両親家族友人知人、たくさんの人が悲しむのよ!」 (そう、悲しみは終わらない。何年経っても、何百年経っても) 「なら何で?」 (私が死んで悲しんだ人間など1人もいない。悲しんで貰える人間には分かるまい。努力して報われる人間には分かるまい。私には誰もいないのだ。親に捨てられ後始末だけ押し付けられた人間の悲しみなど……)
/468ページ

最初のコメントを投稿しよう!

216人が本棚に入れています
本棚に追加