新しい神様

5/5
前へ
/468ページ
次へ
「ここの神社は健康のご利益があるんですか?」 「ううん、全然」 「でもお婆さん元気になったって」 「それは自分の努力だよ」 「え?」  神社の参拝を日課にするようになり、毎日早寝早起きするようになった。朝の澄んだ空気の中散歩をする事により足腰も丈夫になってきた。年を取って弱くなってきたのでお互いが手を取り合い助け合いながら散歩をする事で夫婦仲も深まった。 「それは決してご利益じゃない。でも神様のお陰、旦那さんのお陰と日々感謝して過ごす。これで幸せにならないわけはないよね」 「本当ですね」  先輩は太陽の光を浴びる本殿を眩しそうに見つめた。 「この神社はそんな役割があるんだよ。朝はお年寄りたちがお参りに来る。午後になると子どもたちが遊びに来る。地域になくてはならない場所なんだ。だからいつまでも神聖な場所であって欲しい。ここはいい場所だよ」  式神の効力がなくなったらこの場は荒れてしまう。もしかしたら悪霊の溜まり場になってしまうかもしれない。それを避けるために先輩はこの神社に来たのだ。 「桜さん親子には変な期待をさせてしまった。騙すような形になっちゃって申し訳ない。毎日食事の世話もしてもらったし凄く良くしてもらったのに恩を仇で返すみたいで……。それにせっかく仲良くなったお婆さんとももう会えなくなる。ちょっと寂しいな」  先輩は名残惜しそうに境内を見渡した。寂しそうだが目的をやり遂げて自身に満ちた顔をしている。  先輩は本殿に向かい背筋を伸ばし大きく柏手を打った。そして深々とお辞儀をした。 「行こうか」 「はい」  先輩はスーツケースを持つと颯爽と歩き出した。もう電車は動き始めている時間だ。私は駅まで先輩を見送りに行く事にした。ただ先輩の3歩後を黙って付いて行った。先輩の背中が前よりも大きく見えた。
/468ページ

最初のコメントを投稿しよう!

215人が本棚に入れています
本棚に追加