恒例行事

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「貰ってない、っていうか、学費住職に出して貰ってるから。ほら、僕の家貧乏だったでしょ? いくら貧乏神がいなくなったって言ってもまだ大学行くだけのお金はないから」  柿沼に取り憑いていた貧乏神を福の神に変えてあげた事を思い出す。懐かしい高校時代、楽しかったなぁ。それにしても住職が学費を? う〜む、住職は福の神がついている柿沼は将来出世すると見込んで、今から手懐けておこうとしているのだろう。強かだ。 「あらヤダこんな時間! 早く行かなくちゃ間に合わないですよ!」  お母さんが叫んだ。お喋りに花が咲いて時間が経つのを忘れていた。 「さあ皆さん、急ぐわよ!」  住職の掛け声と共に慌ててみんな上着を羽織り外に出た。氷のように冷たく張り詰めた空気。一気に身が引き締まる。  先頭を行く住職は相変わらず健脚だ。それに続く旧家も平然とした顔で進んで行く。山での修行の成果だろう。そして柿沼、お母さん、私、由美と続いた。 「勉強ばっかしてたから体力落ちてるのよ〜。しょうがないじゃん」  言い訳出来る元気が残っていたようだ。さすがだ由美。  
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