入道雲

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 本番が終わり私は帰り支度をし社員食堂へ向かった。モーニングを食べたら大学へ行くのだ。今年は4年生。卒論を書かなくてはならない。でももう書く事は決めてある。「陰陽師の成り立ちと現代における役割」だ。  文学部に入るといったら由美は「何で愛が文学部なのよ〜!」と羨ましそうにしていたのを思い出す。小説を書く事が好きだった由美。きっと法律家を目指さなければ文学部に入っていただろう。書いていたネット小説も現在は全て「休載中」になっている。試験に追われそれどころではないようだ。  そんな由美に影響を受けなかったわけはない。大学の学部を決める際私は迷わず文学部を選んだ。そこで光とも一緒になれた。源氏物語を一緒に勉強してお互いの前世を知った。何と実り多き大学時代よ!  卒論のテーマは勿論先輩の影響だ。先輩をもっと知りたい。先輩の仕事を理解したい。その一心で陰陽師をテーマに選んだ。 「さて、行くか!」  モーニングを食べ終え愛車に乗り込んだ。目指すは大学。講義が終わったら図書館に行って資料を探そう。  カーステレオを操作する。左手の薬指がキラリと光った。 (先輩、頑張ってるかな?)  いつまで遠距離恋愛が続くのか分からない。でも心はいつも一緒、のはず。  前方には立派な積乱雲が見えた。昔は積乱雲は夏だけできるものだと思っていた。でも気象予報士の勉強をして上昇気流が起これば冬だってできる事を知った。  幽霊も殆どの人は夜に出ると思っているが昼間だっている。現にそこの信号機のたもとに朝日に照らされた血まみれの女性が。  視えなくてもあるものはある。恋だって愛だって見えなくてもある。それは私が身をもって体験しているから事実だ。  私の気流はまだまだ上昇中。入道雲よりも高く、白く、大きく! 〈完〉
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