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建造物がポツポツと見えなくなり始め、青青とした葉が空を遮り、影を落とした山道をウネウネと進んで、舗装されていない道をガタガタと揺られてから、ようやく停車する。
無駄に広い駐車場に車が停まると久しぶりの遠出にすでに疲労を感じた。
外に出ると街の中とはまた違った虫たちの喧噪が、僕たちよそ者の進入を拒むように騒々しく喚いている。
来たくて来たわけではないのに。
ただ楽しみがないわけではない。
親友がいるのだ。
祖父母の家は駐車場からすこし遠い。というのもちょったした高台の上に家があるのだ。数分ほど川を遡るようにして歩き、傾斜のある坂を上れば、ようやく、祖父母の家に到着する。
祖父母の家は駐車場を含めずとも広い。自宅の倍くらいある家のこともそうだが、なにせ人も物も少ない。一年前の大雪の影響で潰れそうになった屋根は直そうにも祖母と祖父の二人だけではどうにもならない。業者を呼ぶのも難しいからと放置しているそうだ。
「………」
久しく会っていない友人の姿を思い浮かべる。
嬉しそうに駆け寄る姿を思いながら、両親の後に続いて、門をくぐる。
「ただいまー」
母が気軽な様子で挨拶するとすぐに遠くから返事が返ってくる。
「はい、おかえりー。ちょっと手が放せないからそのままあがって来なー」
おばあちゃんの言葉と一緒に出迎えてくれたのは私の親友。
「ぺろ」
尻尾を振りながら寄ってくるので、屈むとのしかかるようにして抱きついてくる。
その背中を撫でて、こんなに細かっただろうかと疑問が浮かぶ。
顔を見つめて、全身が凍りつくのを感じた。
左目が、白くなっていた。
まだ頭の整理が追いついていなかった。
三日月のように笑う口はよく見ると歯が数本抜けている。
「大樹の臭いがわかったんだろうね、来たらすぐに動いたよ」
用が済んだのか、いつのまにか祖母が玄関まで来ていた。
「白内障でね、もう見えないんだって」
動揺する僕に気づいたのか、おばあちゃんは優しく教えてくれた。
「そう、なんだ」
お互いに子どもの頃から出会ってから友達として十年以上のつき合いになる。
ペロはもう立派な老犬になっていた。
「荷物置いてくるけど、大樹は…まだいる?」
母が優しい声色で聞いてきたので静かにうなずくと、僕の荷物も一緒に持って奥の方へと向かった。
「ぺろ」
もう一度名前を呼ぶ。よれよれになった毛を指で梳いてあげると嬉しそうに腹を見せた。
心がじんわりと濡れるのを感じる。
おばあちゃんもおじいちゃんも小さい頃からおばあちゃんとおじいちゃんだった。
いつも元気で、まるで実感なんて湧かなかった。
時が経てばどんなものでも死んでいく。
荒い鼻息を手で感じながら、僕は初めて実感することになった。
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