一、村のしきたり、生贄

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 良く晴れた日の昼下がり。この日は日差しが温かく、毎日の寒さも幾分か和らいでいた。世の中は新政府の誕生だの、反政府軍だの、何かと物騒ではあったが、この(やま)(あい)の村ではそんな喧騒は届かず、のどかな田園風景が広がっていた。  さて、そんな穏やかな村で育った宗助は村いちばんの(やさ)(おとこ)として有名だった。外見はもちろんのこと、内面も穏やかで優しく、子供たちから好かれる良き兄のような存在だった。  そう、村の子供たちにとっては、だ。  大人たちは宗助のことを腫れ物として扱っていた。幼い頃に流行病で両親を失っていた宗助は、村人総出で育てて貰っていたのだが幼い頃から病弱で、良く風邪を引いては寝込んでいた。  (よわい)十六を超えた今でも、一日の大半を床の間で過ごすことが多く、体調が良い場合も庭先までしか出歩くことを許されなかった。村の貴重な男手とはならない宗助だったが、それでもここまで大事に育てて貰ったことには、訳があった。 「雪女?」  その日、宗助の出た庭先に子供たちが集まり、村の言い伝えを宗助から聞いていた。今日のお題は『雪女』である。  この村には昔から、雪女伝説が言い伝えられていた。
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