1.それでも、あなたが好き。だから……

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アイツが同じ敷地にいる日がまた来るなんて、思いもしなかった。 母親が言うには、アイツだけ、ほんの数日前に日本に帰ってきたばかりだったらしい。 つまり……アイツは、わざわざ私たちの家から遠いこの高校の編集試験を受けたということになる。 ……一体……何のために? その疑問が解消される前に、私の高校生活は始まってしまった。 だけど、私とアイツは、同じ敷地にいるとはいえ、普段の接点はほとんど無かった。 学年が違うというのはもちろんだけど、理由はそれだけではない。 高校になると、中学よりずっとクラス数も多くなった。 それ程、人数が増えているということ。 だから、すれ違うことすら、まれ中のまれ それでも、アイツの噂は感染症かと言いたくなるくらい、一気に広がっていった。 アメリカ帰りのアイツは、英語がペラペラ。 それでいて、あの容姿だ。 どこにいても、アイツの噂は聞こえてきてしまう。 昨日どこどこで見かけた、とか。 誰とデートしていた、とか。 関係ないと思えば思うほど、そういう外野の声が耳の中に残る。 それが嫌で嫌で仕方がなかった。 考えた末、私は無理矢理外の音をシャットアウトする方法を選んだ。 私は親に高校入学祝いとして買ってもらったのが、外のノイズをしっかり遮断してくれる、お小遣いではとても買えないようなイヤホン。 心を落ち着かせたい時は、イヤホンをつけて、お気に入りの曲を聞く。 それは、この先も続く習慣だと思っていたから、10年は使い続けようと思っていた。 それなのに。 まさか、それから約1年後に、そのイヤホンを私が使えなくなる日が来るなんて、思いもしなかった。
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