4.もう離れない

48/50
前へ
/211ページ
次へ
「でも……」 琴莉は、ゆっくりと言葉を続けた。 時折、頭を手で押さえながら。 きっと頭痛がするのだろう。 その痛みを取り去ってやりたい気持ちで、琴莉の頭を撫でてみる。 その瞬間、琴莉の、頭を押さえる手が緩んだ。 少し安心した。 「話し続けられそう?」 俺は尋ねた。 もし辛かったら、続きはまた明日でいい。 だって、俺はもう決めているのだから。 「ううん……大丈夫……」 琴莉はそう言うと、今度は俺の服をそっと掴んだ。 「あのね……みんなが……言ったの……」 「何を?」 「あんたなんか、ナオにふさわしくないって……地味でブスな私は、ナオに近づくなって、何度も言われたの……」 俺は、言葉を返す代わりに、琴莉をさらに強く抱きしめた。 「それに、友達も言うの。私とナオは世界が違うよって。離れた方がいいよって」 「そんなこと」 ないって言う前に、琴莉は「だからね」と、言葉を重ねてきた。 「私なんか、ナオくんに近づいちゃいけないって分かってた。諦めようっていっぱい考えた。考えて……それで考えたの……」 「何を……?」 俺は、琴莉の髪の毛を撫でる。 犬のようなやわらかい毛がとても気持ちよかった。 「ナオくんが、私の名前を呼んでくれる声があれば、私はナオくんの側にいなくても大丈夫だって。ナオくんから、卒業できるって……それなのに……」 「それはつまり、俺がいなくなるって前提の話をしてるんだよな?」 琴莉は、俺の問いかけに頷きも、首を横に振ることもしない。 俺の胸に顔を埋めたまま。 「琴莉……なんで俺たち、もっと早く話さなかったんだろうな」 俺は、琴莉から距離を取れば守れると思った。 でも、俺たちの絆は、離れていても繋がっていると思った。 そんなのは、俺の勝手すぎる思い込みだったわけだけど。 「なあ、琴莉……。俺の見た目が変わったこと、怖かったのか?」 琴莉は、こくりと頷いた。 「俺の距離が変わったことも、怖かったのか?」 また1つ、琴莉は頷いた。 「そっか……そうだよな……」 俺は改めて気付かされた。 自分が二人のために良かれと思ってしたことは、全部琴莉を不安にさせていただけだということに。 「じゃあさ……琴莉……」 俺は、琴莉の背中を優しく撫でながら、耳元に囁いた。 「俺が2度と離れなければ、そんな不安にはならないのか?」 「どういう……意味?」 琴莉の声は、震えていた。 「俺は、もうお前から離れない。覚悟、決めたから」
/211ページ

最初のコメントを投稿しよう!

296人が本棚に入れています
本棚に追加