1.それでも、あなたが好き。だから……

31/48
前へ
/211ページ
次へ
それから、俺と琴莉がちゃんと会話ができるようになるまで、数年必要だった。 最初は、一緒に学校を行くために待ち合わせもしたが、家に迎えに行っても琴莉はすでに出ていってしまったから。 俺は、琴莉とずっと一緒にいた。 誰よりも長く。 その変化に違和感を持たないほど、俺は鈍くはない。 だから、ある時俺はわざと琴莉が家を出た後、こっそり後をつけた。 おかげで、分かったことがいくつかあった。 琴莉は、俺と登校する時より、1時間も早く家を出ていたこと。 学校の門が開くまで、近くの公園のブランコに座って待っていたこと。 それから……。 「おはよう、佐川さん」 「今日も、1人?」 俺のクラスの女子たちが、琴莉によってたかって話しかけていた。 琴莉の表情は見えなかった。 女子たちの体が、琴莉を俺から隠していたから。 「どういうことだよ」 俺が、比較的話しやすいと思っていた、あの女子を体育館裏に連れていき、俺は問い詰めた。 「なんのこと?」 「とぼけんな。琴莉のことだ」 「琴莉?…………ああ。あの、うざいチビのこと?」 「なんだと?」 「だって、そうでしょ?ナオくんはみんなでシェアするって決めてるのに」 「は?」 何を、言っているんだ? こいつは。 「あの子ばかり、ナオくんを独り占めなんて、許されるわけないじゃない。だから、成敗してあげたんじゃない」 理解も納得もできないけれど、ようやく気づいた。 俺が、琴莉だけを特別扱いしていた事が気に入らなかったこいつらが、琴莉を追い詰めていたということを。 琴莉が俺から離れるように仕向けたということを。
/211ページ

最初のコメントを投稿しよう!

298人が本棚に入れています
本棚に追加