1.それでも、あなたが好き。だから……

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そいつは言った。 うじうじしている暇があったら、自分の意思で好きな女を守れる強さを手に入れろと。 その通りだと、俺は思った。 俺は、何もしてやれないどころか、自分が原因で琴莉が傷つくという現実と向き合うのが怖かった。 俺のせいで、琴莉が傷ついたんだと、琴莉に言われるのが怖かった。 責められるのが怖かった。 結局逃げても、回り道しても、嫌いだと琴莉には言われてしまったが。 「……どうすればいい」 「お、やる気になったか」 「うるさい。さっさと教えろ」 「それが人に教えを請う態度かよ」 それから、そいつが俺にしたのは、全く予想もしていないことだった。 「お前は東洋人の割には派手な顔立ちしてるからな」 そいつはそう言うと、バスルームで俺にある液体をかけてきた。 まるで、今までの俺から卒業するための儀式のようだった。 「中途半端はだめだ。どうせなら思いっきり派手にしろ」 「何でだよ」 「その方が、すげえかっこいいじゃん」 「それが一体なんだって言うんだよ」 「馬鹿かお前」 「なっ……」 そいつはニヤッと笑いながら、俺の髪をいじくりまわす。 「バードちゃんが無視できないくらい、輝いちまえってことだよ」 「それは……」 「お、できた。見てみな、鏡」 そう言われて、俺は自分の姿を見た。 「誰だ……これ……」 琴莉と昔一緒に行った動物園で見たことがある、ライオンのような男が、鏡の中にいた。 「どうだ」 「どうだって……」 「強そうだろ、まるでスーパーマンじゃないか。これなら、バードちゃんを悪い奴から守ってやれるだろう」 こんな簡単なことでできるなら苦労はしない。 そう言いたくなった。 でも、もう1度、鏡の中の男を見る。 たった1時間前に見た男より、ずっと男らしかった。 強そうだった。 自信に、満ち溢れていた。 「……確かに」 自然と、俺は頷いてしまった。 そんなつもりはなかったのに。 そいつは、ニカっとホワイトニングが完璧な歯を見せながら 「よし、ニューナオト計画の第1弾だ」 と笑った。 「まだあるのかよ」 「当然。次は……」 楽しそうに、第2弾、第3弾の計画を話すそいつの案は、今までの俺だったらちっとも思い付かないような突拍子もないことばかり。 けれど、この見た目にしてしまったからだろうか。 過去の、ダメな自分では出来なかったとしても、今の俺ならできるかもしれないと、素直に思えた。 たった1つ見た目を変えただけで、気持ちがここまで変わるなんて、知らなかっった。 新鮮な発見だった。 そいつに相談してよかったと、心から思った。 そして、その日見た夢は……琴莉が笑顔で俺に話しかけてくれる夢だつた。 幸せが戻ってくる前兆のようで、俺は心がウキウキした。 こんな気持ち、久しぶりだと思った。 ちなみに親には思いっきり泣かれたのは、また別の話。 これは、俺達家族が日本に帰国する、ほんの半年前のこと。 この頃には、日本への帰国は決まっていたから、後はどう琴莉と接触をするかを考えるだけだった。
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