1.それでも、あなたが好き。だから……

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俺が日本に帰る日が決まった。 3月の下旬。 琴莉が高校に入学する直前。 琴莉がどこの高校に行くのか、さりげなく母親に聞き出してもらうように頼んだ。 「どうして、そんなことを聞いてくるの?」 と、母親には興味津々に聞かれたので、適当に 「不登校だった人間が通えるような高校だったら、楽かなと思って」 などと言って誤魔化した。 あっさりとその内容で納得されるくらいには、俺はアメリカの学校での成績は良くなかったから、不幸中の幸いというべきか……。 ただ、琴莉の母親は、何度かうちの母親が聞いても 「わからない」 としか返事をしてこなかったらしく、結局最後まで琴莉の母親からの正確な情報を手に入れることはできなかった。 仕方がなく、俺は極力頼りたくなかった、かつてのツテを頼ることにした。 琴莉の名前を出さないように、どうすれば情報を得られるのか慎重に考えた。 その結果 「日本でほとんど勉強していない人間が行くような高校はどこか」 と言う聞き方になってしまった。 最初、そのツテからは 「アメリカンスクールとか?」 と見当違いなことを言われたので、俺は何度かそのツテとやり取りをするハメになった。 その結果、どうにか不登校経験者でも受け入れてもらえ、かつ受験がまだ間に合うという高校の名前を聞き出すことができた。 (高校だから、最悪琴莉が入学していなければ転校すれば良いな) と、一度転校を経験した俺は、最終的にはこのように開き直り、教えられた高校を受験した。 だから、日本に帰ってきて、琴莉が俺が行くことになった高校の制服を着ていた時は、本気で嬉しかった。 今度こそ、俺が琴莉を守ってやれるんだと、楽観的に考えていた。 ただ。 この時の俺は、やらかした失敗が、いくつもあることに気づいていなかった。 それを知ることになったのは、琴莉があの事故に巻き込まれてしまった後。 もし俺がミスさえしてなければ。 ミスに気づいてさえいれば。 琴莉があんな目に遭わずに済んだのにと、悔やんでも悔やみきれない。
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