2.バレンタインの悲劇

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「ご、ごめんね!どうしよう、泣かせちゃった!?」 違う。 私が泣いたのは。 「ごめんなさい…………何でもないんです…………」 「何でもなくないでしょう!?」 田村さんは私を抱きしめながら 「立川先輩がごめんね、意地悪したよね、怖かったよね」 と私を撫でてくれた。 「おい、お前のその行為の方が、新入生セクハラだろうが」 「女の子同士でセクハラとは言わないよ」 「性の多様性のことをこの間放送で特集したばかりだろうが」 「それはそれ、これはこれです」 田村さんは、私をより強くギュッと抱きしめながら 「よしよし、お姉さんのお胸でお泣き〜そして放送部に入ってね〜」 と言った。 抜かりのない宣伝の仕方に、私は思わず吹き出した。 「お、笑った!元気になったの?」 本当に元気になったわけではないけれど。 まだ、この涙の意味を、目の前のちょっと面白そうな人達に説明するには、時間と頭の整理が必要そうだけど。 「あの……立川……先輩?と田村先輩?」 私がそう言うと、立川さんと田村さんが、私を見てにっこりと笑ってくれた。 いつも、私が年上に見られる時……家族とアイツ以外はみんな私を睨んできたから、余計に2人の存在が嬉しいと思った。 アイツ以外に、年上の仲が良い人ができるかもという、現実に。 それは、世界が変わっていく、確かな始まりだと感じたから。 「あの……放送部……入ってもいいですか?」 私は、たった1回の感動的な体験と、彼らともう少し話をしたいという理由だけで、今までの自分だったら絶対にしなかったであろう、新しいチャレンジに飛び込む決意をした。 私の言葉を聞き 「うれじいよー!ありがとう琴莉ぢゃーん!!」 「これで、廃部は免れたから、安心して大会の準備ができる」 と、それぞれの言葉で喜びを口にしていたのも、嬉しかった。 ただ、この後すぐ知ることになる。 唯一の想定外に。 私の教室から放送室へ行くためには、必ずアイツの前を毎回通り過ぎないといけないという、悲しい地獄が待っていることに。
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