2.バレンタインの悲劇

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その日の夜。 私はYouTubeやテレビ、SNSで人気の曲を聞きまくった。 最初のきっかけは、家に帰っても昼に会った時のアイツの顔が忘れられなくてもやもやしたから。 音楽を聞いている間だけは、辛かったことを思い出さなくても済むことに気づいてから始めた、私を守るための儀式のようなもの。 でも、いつもだったら好きな曲を延々繰り返すだけなのだが、今まで手を出そうとしなかった新しい曲にも手を出してみることにした。 放送部に入るからには、少しでも自分にできることを頑張りたいという前向きな気持ちになれていたから。 ランキングを制覇する鉄板の音楽だけではなく、アニソンやゲーム音楽などSNSで人気の楽曲は本当に幅広いと思った。 きっと私も、こんなきっかけがなければ知らなかっただろう……という曲も次々と脳の中に染み込んでいく。 「あ、今こんなのが流行なんだなー」 と、メモをしながら聞く。 曲名と歌手。 どんな曲調なのか。 コメントはどんなものがついてるか。 そのメモが、きっと放送部の活動を助けてくれるんじゃないか……とワクワクした。 まだたった1日の体験しかしてないのに、そんなことを考えてしまうくらいに、私は放送部という場所に次行くのが楽しみになっていた。 でも、気づいてしまう。 メモは、思考の歴史を残してくれるもの。 メモを取れば取るほど。 私が無意識に 「この曲、好きかも」 と書いている曲には共通点があったのだ。 アイツとかつて聞いていたような曲に、よく似たメロディやリズムのものばかり。 それに気づいた時に、またふと蘇ってくる、私を呼ぶアイツの声。 聞きたくないと思っても、どんどん耳にこびりついてくる声。 やっぱり私の心には、彼の声が住み着いていて、離れてくれそうにないらしい。 もどかしいと、思った。
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