2.バレンタインの悲劇

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念のため、田村先輩にも聞いてみると、立川先輩の予想通り 「いいと思う!」 の一言だったので、早速次の日の昼の放送で告知をした。 音楽のリクエストは、放送部の活動で使用しているメールアドレスに送ってもらうことにした。 放課後の活動の時に確認してみると、放送直後から、たくさんのリクエストを受け取っていたことがわかった。 普通のお便りやネタ募集よりも、数多くメールが来たことから 「何だか悔しい……」 と田村先輩はほんの少しご機嫌斜めになったようだった。 「おいおい、ガキじゃないんだから」 立川先輩は田村先輩をなだめながらも 「これだけ放送部が流す音楽に関心を持ってくれることは、嬉しいよ。ね、佐川さん」 今度は私に話を振ってきた。 これは、嬉しいことなんだろうか? 私にはいまいち実感が持てなかったが、メールを1通1通開いてみると 「最近の放送、音楽がいい!俺のおすすめも流してほしい!」 「推し曲を紹介したい!」 確かに、読んでるだけで元気になるコメントばかり。 私はかつて、匿名で 「死ね」 「学校へ来るな」 「寄生虫」 といったメッセージばかり貰っていたから、正直言えばメールを開く時は手がガタガタと震えた。 だからこそ余計、嬉しかったのかもしれない。 私を否定する言葉がなかったことが。 私を肯定する言葉ばかりが並べられていたことが。 「佐川さん、来たメールから音楽のリスト作ってくれる?学校の備品購入で検討するから」 立川先輩はそう言うと、ブースの中に入って朗読の練習を始めた。 コンクールで優勝することが夢だと言っていた立川先輩の朗読は、CDと勘違いする程綺麗な声だった。 これで去年は全国大会には行けなかったと聞くので、すごい世界なんだな、と思った。 コンクールかぁ……すごいなぁ……。 私には、そう言う目指すものが何もないけれど、せめて求められるなら役に立てたらいいな、と思いながら、音楽リストをノートに作り始めた。 数十件のメールを確認している内に、あっという間に下校時刻になった。 あと1件だけ、確認したい。 そう思って、次のメールを確認した時だった。 そのメアドも、確かに私は知らないはずだった。 でも、メアドの中に bird の文字があった。 それに、波を意味するwaveの文字も。 何か言葉があったわけではない。 それどころか、曲名しか書いてない、簡素すぎるメール。 でも、その曲名を見て私は涙が出そうになった。 アイツと私の、思い出の曲。 小さい頃、2人で大好きだと言っていた曲。 このメールは、アイツからのものであって欲しい。 そんな風に思ってしまう自分が嫌だった。
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