2.バレンタインの悲劇

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「そんな人……いるんですね」 「そうなの!琴莉ちゃんの周りには、そんな人いない?」 「……いるわけないじゃないですかーそんな人、近づきたくないです」 「だよねー!もし万が一、松井くんが琴莉ちゃんに近づこうものなら、全力で私が守ってあげるからね!」 「頼もしいです」 私は、田村先輩が語る松井波音という人物のことは、知らないことにした。 むしろ、実際に知らないと言っても過言ではないと思う。 私の記憶の中にいるアイツは、確かにモテていた。 だけど。 金髪でもないし、取っ替え引っ替え女をホテルに連れ込むような人ではない。 ……そう。 その松井波音は、きっと私が知っているアイツとは違うのだろう。 アイツの声は、もっと優しくて、明るい。 思い出すだけで、元気になれる。 それに笑顔だって、あんなに刺々しくない。 私よりもずっと可愛い、女の子のような笑顔。 もう、私が知っているアイツは存在しない。 私の脳の中にいるアイツさえいれば、それでいい。 私は、もうアイツには会いたくない。 会うべきではない。 これ以上、私から大好きなアイツを消したくないから。 私は私の中にいる、アイツの声だけを大事にしたい。 それに私には、新しい世界ができた。 放送部という場所に、立川先輩や田村先輩という、私にとって薬以上の存在。 ここがあるおかげで、私の心に深く残った傷に、かさぶたができ始めた。 だから、アイツなんかもういなくても大丈夫に、早くなりたかった。 でも……。
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