2.バレンタインの悲劇

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学校では、あいつが私に直接接触することはなかった。 あの日、CDを拾ってもらった、ただの1度きり。 それ以降、私の視界には入ってくることはあっても、私も極力見ないようにしていたし、あいつも無理に私の前に入ってくることはしなかった。 学校では。 それなのに。 「おはよう、琴莉」 「今日も元気か?」 どうしてだろう。 朝の通学時。 アイツはいつも、家の前にいる。 アイツの周りにいる、女の子達を連れて。 放送部の活動のために、私は一般生徒より少し早めに登校する。 私は必ず、アイツの前を通らなくてはいけない。 すれ違う瞬間、アイツは私に声をかけるのだ。 最初は、無視をしていた。 イヤホンをしっかりつけて、聞こえないフリをしたかった。 でも、ある日、聞こえてしまった。 「ねーナオ。あの子、なんなの?」 「あー……妹みたいなもん。あの子のお母さんから頼まれてるんだ。声かけてやってくれないかって」 「えー律儀ー」 「意外ー!!そういうナオくんも、好き!」 なるほど。 そういうことか。 中学の頃、突然不登校になった話でも、母がアイツにしたのだろう。 惨めだと思った。 アイツは、義務で私に声をかけているのだと知ったから。 でも同時に、少しだけホッとした。
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