2.バレンタインの悲劇

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アイツが私に声をかけるのは、アイツの意思じゃない。 義務だから仕方がなく。 女の子達も、大人から与えられた義務に対しては、イライラすることはあっても、その行動を止めさせることはなかなかできることではない。 義務を嫌々こなしているわけでなければなおさら。 だから、口では何かを言えても、実際に手を出すことはしない。 義務をこなしている人間……つまり、アイツを全否定することになるから。 アイツに嫌われることだけは避けたい女の子達にとっては、アイツの行動はどんなものであれ黙認をするルールにでもなっているのだろう。 でなければ、次々と女の子をホテルに連れ込むようなことをしている男に、あそこまでキャーキャーと騒がないだろう。 盛りのついた雌猫のように。 好き、という気持ちはそれくらい怖いもの。 一般常識ではありえないと思えることにも、簡単に蓋をする。 私は、それを自分の身をもって知っている。 どんなにアイツの淫らな噂を聞いてしまっても、毎朝のたった一言の声かけだけで胸がときめいてしまうのだから。 ことりという音を、アイツの声が奏でている間は、アイツの声も、アイツの意志も私だけのものなのだから。 自分で傷をつけ、かさぶたができたらまた傷をつける。 不毛な片思いに、いい加減ピリオドを打たないといけない。 そんなことを漠然と考えているときだった。 立川先輩から予想もしなかったことを言われたのは。
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