2.バレンタインの悲劇

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それから、あっという間に2月になった。 立川先輩の卒業まではあと1ヶ月。 その間、立川先輩は普通に接してくれた。 だから私も、ゆっくりと考えることができた。 立川先輩の彼女になったら、自分はちゃんと楽しいと思えるのか? 立川先輩とデートをする想像もしたこともあった。 立川先輩はきっと、いつものように私が退屈しないおしゃべりを積極的にしてくれるだろう。 誰もが認める良い声で。 そして私は、きっと笑っているのだろう。 立川先輩は、私を笑顔にする会話がとても上手いから。 きっと、立川先輩の彼女になることは、私にとって良い選択だ。 胸が押しつぶされそうな苦しい想いをすることは、なくなるだろう。 そう思っているのに。 そんなことを考えるたびに、やはりアイツのことばかり思い出してしまうのだ。 アイツの周りには、今でも女の子がいる。 次々と、別の女の子とホテルに行ったという情報も入ってくる。 そんな1つ1つを受け取るたびに、私の心はどんどん傷がついていく。 頑張って笑顔でいようと思っても。 平気になったと思い込もうとしても。 ふとした瞬間に思い出しては、悲しくなる。 アイツはどんどん知らないアイツになっていくのに。 もう、アイツは私の手には届かないところにいるのに。 今のアイツが私に話しかけるのは、ただの義務でしかないというのに。 まるで私だけが、取り残されているような……虚しい気持ちに支配される。 そんな、自分を嫌いになりかけたところで、立川先輩から告白されたのだ。 これは、チャンスなのかもしれない。 アイツという存在に囚われる自分から抜け出すための。 わかっているのに。 立川先輩に 「彼女になります」 と言えば済むだけなのに。 毎日でもそのチャンスがあったのに。 私はできなかった。 どうしてだろうと、毎日考えて考えて……ようやくその答えを見つけたのは、2月12日。 放送部で受け取った、リクエストメールが、ヒントをくれた。 「好きな人に告白したら、コテンパンにふられちゃった。明日から前を向いて歩きたいので、応援してくれるような曲を流して欲しい」
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