2.バレンタインの悲劇

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その日、私は人生で初めて手作りチョコを作るための材料を買いに行った。 本当は、1箱1000円以上もする高級チョコレートの方が良かったのかもしれない。 でも、バイトもしていない私は、そんなものを買える懐具合ではない。 私が持っているお金が、母親から持たせてもらってる月の学食分だけ。 それをどうにかやりくりする必要がある。 頭の中でぱぱっと計算をしてみると、今月はせいぜい500円くらいしか使えない。 その500円というのは、1食分の学食、もしくは5回分の飲み物代。 それを犠牲にしてまで、本当にアイツにチョコをあげるべきか、少しの時間悩んだ。 でも、たった数秒だった。 贈るべきだ、という判断をすることができたのは。 その数秒で、ありありと思い出されてしまうのだ。 アイツの声、眼差し、かつて一緒にいた日々が。 忘れようと必死に努力をする私を、アイツとの思い出が嘲笑う。 もう、こんな日々は耐えられない。 いっそ、思いっきり嫌いになりたい。 嫌いになってほしい。 優しくなんかされたくない。 無視してほしい。 そうすれば、最初はどんなに傷が痛んだとしても、これ以上深い傷を負うことはもうなくなるから。 後は塞がっていくのを待つだけだから。 だから私は決めた。 チョコを渡して、徹底的にフラれて、深く酷くアイツに傷付けられようと。 二度と、アイツへ分不相応な想いを抱かなくて済むように。
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