2.バレンタインの悲劇

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板チョコ1枚と生クリーム、そして小さなラッピング用の袋を買った。 セールのおかげもあり、ギリギリ500円以内で全て揃えることができた。 急いで家に帰り、スマホで生チョコの作り方を調べた。 お湯を沸かしている間に、チョコレートを切り刻む。 アイツとの思い出を切り刻むように。 とても良い音が、台所に響く。 甘い香りが、私を包み込む。 その香りが、私を自然と笑顔にする。 私が素直になるための勇気をくれる。 ヘラを使い、チョコレートがとろけるまで私はチョコを愛でる。 このチョコレートに、私がこれまで秘めていたアイツへの想いを込めるために。 今までありがとう。 昔、優しくしてくれてありがとう。 琴莉と呼んでくれてありがとう。 好き。 大好き。 もう一度、ナオくんと呼びたかった。 もう一度、あなたの横で思いっきり笑いたかった。 そんなことを考えながら作ったのは、たった1つの生チョコレート。 きっと、他の女の子があげるチョコよりもずっと不恰好で、哀れに見えるだろう。 だけど、これが私の全て。 これが、私そのもの。 「これを受け取って」 と言いながらアイツに差し出して 「こんなちっぽけなもの、俺に合うと思うの?」 と言われようと思った。 そこまでされれば、いい加減吹っ切れる。 アイツの声を聞いても、ときめくと言うことをしなくて済むくらい、嫌いになれるだろう。
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