2.バレンタインの悲劇

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それから、自分がどうやって病院に辿り着いたのかはわからない。 気がつけば、コーヒーの染みのようなものが服にべっとりついていた。 でも、そんなことはどうだっていい。 琴莉のところに早く駆けつけたい。 琴莉の無事を知りたい。 早く、早く……!!! そうして、俺が病院に辿り着いた時、すでに受付は薄暗くなっていた。 「どうしました?」 たまたま通りかかった看護師に声をかけられた。 こういう場所に勤めている人は、とても冷静なのだろう。 「さっき……事故で運ばれた…………高校生の…………」 俺が支離滅裂な事を言っても 「あの、ご家族でいらっしゃいますか?」 と、機械的な質問を投げかけてくる。 「ええと……そうじゃなくて……」 「ご家族ではないんですか?」 家族ではない。 でも、家族以上の存在だ。 俺にとっては。 でも、こういう場所で求められている答えはそうじゃないことくらいは、分かっているつもりだ。 「家族では……ないです……」 「では、申し訳ありませんがお教えすることはできません。お引き取りを」 そう言って、看護師は、俺が走ってきた時よりもずっと機敏な動きで、歩いて行った。 どうしよう。 こんなところに取り残されて。 琴莉が無事かどうかすら分からないまま、家に帰るのは嫌だ。 せめて、フロア図を探そう。 そう思って立ち上がった時だった。 「あなた……どうして……」 琴莉の母親が、憔悴した顔で俺を見ていた。 俺がよく琴莉の家に遊びに行っていた頃より、白髪も皺も増えてはいたことは知っていた。 たまに会釈をするくらいの交流はあるけど。 でも、目の前に立っている人は、俺の最も新しい記憶の中の人の何倍も、老けているようだった。 一瞬、別人かと思うくらい……。 声を出してくれなければ、気づけなかったかもしれない。 「あ、あの……琴莉……が事故に遭ったって聞いて、それで……」 その瞬間、俺の頬に強い痛みが走った。 「あんたのせいで!琴莉が事故に遭ってしまったのよ!!!もし琴莉が死んだら、あんたのこと一生恨むから」
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