2.バレンタインの悲劇

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どうしよう。 俺が理由だと言われても本当に心当たりがない。 すみませんと、謝るべきだと分かっていても、何に対して謝ればいいのか分からない。 「なんとか言いなさいよ!そもそも!あんたのせいで……!!」 琴莉の母親が、俺の顔を叩こうとしたその時 「やめないか」 後ろから、琴莉の父親が現れた。 顔は小学生の時に見たままだが、こちらも年月が経った事を増えた白髪が教えてくれた。 一見すると、とても優しそうな男の人。 近所でも、評判の良いお父さんだということは、自分の母親が何気なく教えてくれた。 でも、俺はこの人が何となく怖かった。 将来自分が 「琴莉をください」 という人になるのか……と考える度に、断られる想像しかできていなかったから、というのも、あるのかもしれない。 そんな事を、今はとても口に出せるような雰囲気では、もちろんないが。 「波音君、妻がすまないね」 「どうしてあなたが謝るのよ!!」 「落ち着け。まずはちゃんと本人に確認を取るのが筋だろう」 「どうしてあなたはそんなに冷静なのよ!あの子のことが心配じゃないの!冷血漢!!!」 「琴莉のことが心配でたまらないことと、彼を無条件に責めることは切り分けて考えなければダメだ」 琴莉の父親はそう言うと、ペットボトルを琴莉の母親に渡してから 「手術室前で待っていなさい。琴莉が寂しがるだろう」 「でも……」 「いいから。待っていなさい」 琴莉の母親は、キッと俺を睨みつけると、足早に去っていった。 それからすぐだった。 「波音君、そこに座りなさい」 俺に対する口調が、急に変わった。 それで分かった。 ああ、この人も、俺に何かしらの怒りを抱えているのだと。 それを、覆い隠す仮面をつけていただけなのだと。
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