1.それでも、あなたが好き。だから……

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たった一人のアイツと離れた代わりに、たくさんの女の子の友達ができた。 ブスと言われなくなった。 死ねと言われなくなった。 その代わり、一緒に帰ろうと言われるようになった。 日曜日に遊びに行こうと誘われるようになった。 かっこいいアイドルの話で盛り上がることができた。 堂々と、お気に入りのキャラクターやアニメについて話すことができた。 そうしているうちに、私はニワトリと誰からも呼ばれなくなる。 アイツしか呼ばなかった、「ことちゃん」というあだ名をみんなが使うようになった。 あんなに嫌いだった学校が、とても好きになった。 私の世界のほとんどに、アイツがいない。 たったそれだけのおかげで私は、学校で笑えるようになった。 それが、私にとって幸せだと思っていた。 だけど、アイツが中学生になり、私がまだ小6だった頃。 アイツは、私のクラスでも有名だったから、その噂がすぐに広まった。 松井波音は、次から次へと女の子を取っ替え引っ替えしている。 松井波音は、美人の彼女とキスをしていた。 その頃人気だったアイドルたちの話題より、そのことでクラス中の女の子達が盛り上がっていた。 ガチ恋勢は、嘆き悲しむ。 ファン勢は、カップリング論争で盛り上がる。 男子達が当時、そんな女子達にドン引きしていたのは記憶に新しい。 そして私は……まだアイツの事を忘れられないでいたことに気付かされた。 私は、となりの家が見えないようにカーテンを閉めたまま、部屋に閉じこもるようになった。 アイツが、私以外の女の子の横で笑っているのなんて見たくなかったから。
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