2.バレンタインの悲劇

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最初の違和感は、琴莉の入学式直後。 俺も、4月からの編入組。 これは、琴莉との確固たる共通点だろう。 同じタイミングで、新しい場所で生活を始める。 この状況こそ、子供の頃の俺が喉から手が出るほど欲しかったものだ。 「周囲の探検をしたいけど、一緒に行こう」 子供っぽい理由づけかもしれないが、これこそ俺がかつて望んだ琴莉との関係性だった。 一緒に新しいものを見て、感じて、感想を言い合って、笑い合う。 俺が小学校に入る前には、何の意識をすることもできていた、当たり前だったはず。 失ってしまったことで、そういう時間がいかに尊いことかを実感していた。 「よし……」 俺は、入学式が終わった頃、琴莉の教室に向かおうとした。 1つくらい手土産がある方が、会話のきっかけになるだろうと考えて買った、アメリカ土産の自由の女神マグネットも、しっかりポケットに入れた。 1年生の教室があるエリアに到着した、まさにその時 「ナオくん、琴莉ちゃんに会いにいくの?」 と、榎本が声をかけてきた。 俺にとって、その事実は当たり前すぎて、普通に 「そうだけど」 と答えてしまったが、よくよく考えれば気づくべきだった。 俺が知っている限り、榎本には琴莉との接点はなかったはずだったのに。 何故琴莉という名前の音を知っているのか。
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