2.バレンタインの悲劇

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そういえば、かつて1度だけ琴莉の教室に行った時。 「約束守ってくれてありがとう」 そう言って、琴莉の教室から走り去った女子がいたことを思い出した。 それからの記憶が嫌すぎたので、今まで無理やり忘れる努力をしていたのだが。 あの女子については、名前と顔など、ほとんどもう覚えていなかった。 どうにか無理やり思い出す努力をして、1つの記憶を捻り出せた。 確か、その女子は、榎本と毎日一緒にいた。 俺には分からないような話題を、数分ごとにコロコロ変えながら絶え間なく話し続けていて、「どこで呼吸してるんだろう」などとどうでもいい疑問が浮かんだことまで、セットで思い出してしまった。 ふと、そこからの連想記憶で、もう1つ記憶が蘇った。 その女子は、榎本とは別の……琴莉を成敗するとか言いながら、琴莉を追い詰めていた女子とも、比較的仲が良かった。 俺は普段、琴莉の名前をクラスの人間の前では言わなかった。 言う必要もないと思っていたから。 でも唯一、あの日……琴莉に酷いことをしていた時に我慢できなくて責めた時だけ、俺ははっきり言ったんだ。 「琴莉に何をした」 と。 下級生の名簿を逐一チェックをしていない限り、琴莉の名前を知る機会はないだろうし、知ったとしても、俺との関係性に気づけるのは幼稚園時代を知っている人間と、あの出来事に遭遇している人間。 それらを考えた時に、やっぱり引っかかってしまう。 榎本は、幼稚園も違うし、あの場にもいなかった。 自分で調べるか、あの女子たちから情報を聞くしか、恐らく俺と繋がりがある琴莉のことを知ることは……ないのだ。 じゃあ、どうして榎本は躊躇いもせず 「琴莉ちゃん」 と言った?
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