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数日後。歳の近い子を連れ立ち、金色に輝くひまわり畑でみんな真っ黒に焼けるまで遊んだその晩。直哉は一番小さな、3つ下の従兄弟に絵本をせがまれた。
「これがいい、なおくんこれ読んで」小さな手が差し出したのは『みにくいアヒルの子』
めでたしめでたしで締め括った後、幸せになって良かったねーと、屈託無い笑顔を向ける従兄弟を見ながら直哉は思った。
〝みにくいアヒルの子は、本当に幸せになれたんだろうか?〟
自分の本当の親が白鳥で、自分も白鳥なんだと知った時。みにくいアヒルの子は、悲しくなかったんだろうか。今まで親兄弟だと思っていたのが実は赤の他人だったなんて。自分なら、胸が張り裂けるくらいに悲しい。
みにくいアヒルの子は、白鳥の群に帰った後も、やっぱりアヒルとして生まれ、一緒に育った兄弟といつまでも暮らしていたかったと、そう願い続けて残りの命を生きたんじゃないだろうか?
「なおちゃん、どうしたの?」
声をかけられて、直哉は自分が泣いてる事に気付いた。
「なんでもないよ」
言いながら、覗き込む叔母と従兄弟から顔を隠すように慌てて両手で、むちゃくちゃにして涙を揉み消した。
もしかしたら自分はお父さんの子供じゃないかもしれない。そんな事を思ってしまったなんて、とても言えないし絶対に言いたくなかった。
けれど、布団に入ってからまた涙が出た。暑い夏の夜、タオルを被って、声を殺して泣いた。
みにくいアヒルの子みたいに、いつか自分も両親や兄と離れ、ここではないどこかへ行くのだと、そう予感してしまったから。
泣き疲れた直哉は、昼間遊んだひまわり畑の夢を見た。
蝶を遊ばせた金色に燃える向日葵が、おいでおいでと。手招きして誘うように、柔らかい風の中で揺れていた。
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