1 新たな悪夢

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1 新たな悪夢

 夢に見た銃の乱射事件は実際に発生しなかった。しかし現場のショッピングモールに来ていた僕は新たな悪夢を見る。旭日章のつく制帽を被る生首が降りつもる夢だ。そして今――銃を乱射するはずだった犯人に警官たちが斬首される惨状を目のあたりにしている。 「た,助けて……お嬢……」間部(かんべ)紗架(しゃか)にしがみついた。 「あんたはあたしのボディーガードでしょうが! しっかりしてよ!」暴力団組長を親にもつ紗架が発破をかけた。 「す,済んません……お,俺……腰が抜けちゃったみたいっす……」  紗架と一緒に巨体を両脇から抱えるが,重すぎて運べそうにない。 「君,助けを呼んできなよ」――1人で逃げろと伝えたつもりだ。 「おじさんこそ――」そう口走るなり唇を真一文字に結んで立ちあがる。  殺人鬼がそこまで来ていた―― 「よせ!――」紗架の前に立ちふさがった。  振りかざされた日本刀が脂ぎった光を発し,ゆっくり落ちてくる…… 「何で?……」調子の定まらない素っ頓狂な声を漏らし,眦のつりあがる凶暴な目に人間的な感情を宿した。「何でここに?……ああ,そうなの?……迎えにきてくれたの?」  体あたりされる。アスファルトに転倒し腕をしたたか打った。  クソッタレェ!――犯人の怒号が響いた。  すらりとした体格の男が犯人と揉みあっている。犯人の手から日本刀が擦りぬけ高く宙を舞いながら落下する――むかってくる?――狙いうちしたように真っ直ぐ加速し突いてくる!―― 「結夢(ゆめ)!――」男がおおいかぶさった。ずぶっという音がして眼前の左肩から黒い刃が突きだす。肩を貫く刀の切っ先を血がつたいおち唇を侵した。舌の痺れるみたいな味がする。集団の中心でのしかかられて唇に嚙みつかれたあの日の記憶が蘇った――
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