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9 消えた絵画
ウツツの姿はなかった。
それどころか死体もなかった。キッチンも浴室も血みどろであるはずが,一点の染みも見あたらないのだ。
僕はまた悪夢のなかを彷徨っていただけなのだろうか……
「この絵は……」ジュピタラーが寝室兼仕事部屋のイーゼルに立てかけられた絵を見ていた。丸々と肥えた長い毛足の白猫が海色の瞳を見ひらき,林檎に挑みかかる絵だった。
「違う!」イーゼルに歩みよる。「ウツツの絵はキッチンに飾ってあったのに!」
異変に気づく。
「ない! どうして!――」所狭しと置いてあった絵画が全てない。ウツツを描いた絵を残し,ほかのあらゆる作品が跡形もなく消失しているのだった!
肩を摑まれる。強烈な力が加わる。ジュピタラーが真剣な眼差しをむけている。
「何……どうしたっていうの……」
「この絵の筆致は間違いない――あなたがマドカなの」
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