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告白と失恋
次の日の2月14日。
バイトが終わった私は、あるところに向かっていた。
今日はいよいよ自分の気持ちを伝える日。
緊張はするけど、ちゃんと自分の気持ちはちゃんと伝えなくっちゃ‼
「大丈夫だよ、加絵。お前なら出来る‼」
緊張して気持ちをまぎわらそうと、手のひらに『人』という字を三回書き、飲み込むと一息つく。そうしている間に、いつの間にか緊張はほぐれていった。
「大丈夫……ゆっくり深呼吸して」
小さく呟き、懐かしいバイト先の事務所のインターホンを鳴らす。
ガチャリ。
ドアを開けてくれたのは、高校生ぐらいの女の子だった。
「あっ、あの‼有末さんいますか⁉」
一気にそうまくしたてる。
すると女の子はちょっと待ってくださいと言い、一度ドアを閉めた。待つ時間はそんなに長くないはずなのに、長く感じる。
それから数分後、ガチャリとドアが開き、有末さんが顔を出した。
「おっ、櫻井さん。お久しぶりですね」
「あっ……おっ、お久しぶりです」
ドキドキする胸を抑えながら、ペコリと頭を下げた。
うぅっ……相変わらずカッコいいし、声までカッコいい……
懐かしさにふと泣きたくなる。
こんな風に有末さんと話すのは久しぶり。もちろん私もちょこちょことこのお店に来てはいるが、会えないことが多いし、会えたとしてもちょこっと話すだけ。
「有末さん、最近お仕事どうですか?店長としては責任重大だから大変じゃないですか?」
「そんなことはないよ。仕事は楽しいしよ。櫻井さんは?」
「私ですか?私もそんな仕事忙しくはないですよ。このコロナ禍で居酒屋の時間短縮営業だし」
そんな話をしているうちに、いつの間にか緊張は解れていた。
よし、渡すなら今がチャンスだ‼
「あの、有末さん。これ、私からの本命のバレンタインチョコです‼」
そう言い、グイッと有末さんにチョコを渡す。
「これ、俺に?」
有末さんは驚いたような顔をしている。
「はい。実は私……高校生の頃から有末さんのことが好きです‼付き合ってください‼」
ドキドキと胸の鼓動が高鳴る。
私の人生初の告白……
返事はイエス?それともノー?
ドキドキしながら俯いていると、
「ありがとう、櫻井さん。でも、ごめん……俺、彼女いるから」
有末さんがそう返事をする。
その返事を聞いた途端、
ガシャーン。
心のガラスが粉々に散ったような気がした。
「そっ、そうですか。そう……ですよね。あれから10年経っていますからね」
泣きそうになる気持ちをぐっと抑え、そうまくしたてる。
「でも、チョコは受け取るよ。ありがとう」
そう言って有末さんは優しく微笑んでくれた。
「有末さん、チョコ受け取ってくれてありがとうございます。彼女さんと仲良くしてくださいね。またお店に来ます」
「うん。櫻井さんも仕事頑張って」
お互いに手を振ると、有末さんはお店に戻って行った。
私はお店の前を離れると、フラフラと歩き出し、震える手で鞄の中から携帯を取り出すとタクシーを呼ぶ。
五分後、来たタクシーに乗り込み、帰路につく。
ズキズキと痛む胸を抑え、私はタクシーの中で静かに涙を流した。
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