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パタンと部屋のドアを閉めると、持ってきた衣料品や身の回りの物をクローゼットに片付けた。備え付けのベッドにデスク、小さな冷蔵庫。高校時代から愛用しているCDプレーヤーに、大好きなバンド『ポジティブノック』のCDをセットした。ベッドにゴロンと寝転んでポジノン聴いてると、落ち着く。
コンコンと、ドアをノックする音に、ガバッとベッドから飛び起きた。一旦、CDを止めると、恐る恐る、ドアを開けた。
「隣の部屋の住民です」
真顔で、そう名乗った男は、小柄で、色黒で、キリッとした目が印象的だった。
「三年の八幡優作です。よろしく!」
何を言われるかと思ったら、急に笑顔で自己紹介をされて、拍子抜けした。
「ど、どうも。綾部大知です」
「大知くん! さっそくだけど、散髪に行こう」
「は?」
八幡優作と名乗った男は、呆気にとられる僕を半ば強引に外に連れ出し、自分の車に乗せた。
「シートベルトして!」
「あの」
「その長ったらしい髪をスッキリしようよ」
僕は、顔を隠すように少し髪を長くしていた。他人から目を見られるのが、怖かったからだ。僕は、何も言えずに俯いていた。
そのうち八幡さんは、どこかの駐車場に車を止めた。『カットハウスやわた』と書いてある。実家が理髪店なのかもしれない。
「この頭、スッキリしてやって!」
「こんにちは。さぁ、どうぞこちらへ」
小柄で色黒の男性が笑顔で迎えてくれた。父親にしては、若すぎるから、お兄さんなのかもしれない。
「どんな髪型に?」
「えっ」
いきなり連れてこられたから、髪型も何も、考えてなどいなかった。
「スッキリ、カッコよくしてやってよ!」
大きな鏡を前に、僕は自分を真っ直ぐに見ることができないでいた。固く目を閉じて、成り行きに任せるしかなかった。
「スッキリ、カッコよくなりましたよ」
しばらくすると、そう声をかけられた。恐る恐る目を開く。
「おっ! いいね~!」
後ろで雑誌を読んでいた八幡さんが、笑顔で近付いてきた。僕は、目を見開いた。顔を隠す髪はすっかり短くなり、耳も丸出しになっていた。その短い髪は、中学生の頃の自分を思い出させた。
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