大学生活のはじまり

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大学生活のはじまり

 本格的に大学生活がスタートした。獣医学部は六年制。それでも学ぶことはギッシリあり、バイトをする余裕なんてない。そんなこともあり、馬術部のことは、宙に浮いたままだった。 「大知くん、おはよ」  理沙は、講義の時に僕をみつけると、必ず声をかけて隣に座った。 「おはよ」  むかしから、おせっかいなのは変わらない。僕なんかに構っていたら、大学で友達もできないのに。僕のことなんか、放っておけばいいのに。理沙は、本当におせっかいなヤツだ。  学生寮には、こんなきまりがあった。 『男子が女子寮に入ること、女子が男子寮に入ることは厳禁。規則を破る者は停学処分』  それでも年に数回、『規則を破る者』がいるらしい。そんな寮の中で唯一、男女が一緒に過ごせる場所が食堂だった。寮生同士のコンパがあったりするらしい。これは、みんな優作さんから聞いた話だけれど。  夕飯時、食堂に向かうと理沙が女の子と一緒に食事をしていた。寮で友達ができたのかもしれない。少しほっとした。 「大知くん! これからメシ?」  黒髪の美女を連れた優作さんに、声をかけられた。 「もしかして優作のお隣さん? 私、三年の宇治美園(うじみその)です。よろしくね」 「綾部大知です……」  歳上の美女から急に自己紹介されて、しどろもどろしながら挨拶をした。 「腹減った! とりあえず食おうよ!」  三人で夕飯を食べることになった。 「私も馬術部なんだ。今のところ、入部希望者もいないし、どう?」  どうやら宇治さんも、僕を勧誘したいらしい。馬術部、そんなにやばいのかな。 「廃部の危機を救うべく、ぜひお願いしたい!」 「学校公認なのに、廃部の危機なんですか」  僕が質問をすると、優作さんは驚いた表情を見せた。 「うん。先輩が卒業したり、在籍しているのに来なかったり。今、三年が四人だけ。昨年は入部希望者ゼロ。存続が厳しいんだよ」 「……それならば」 「えっ! 入ってくれるのか?」  優作さんとはあれから、何度か話をした。最初は、鋭い目が怖かったけれど、優作さんは必ず、目を見て話す人だった。この人は、僕を傷つけることはない。そんな気がした。 「そのかわり、もうひとり連れて来ても良いですか?」  翌日の講義のあと、「ちょっと来て」とだけ言って理沙を連れ出した。 「ねぇ? どこに行くの」 「乗馬したことある?」 「ない!」  馬術部の部室前にやってきた。優作さんたち部員が僕たちを待っている。 「乗馬したことないって言ってんのに! どうして馬術部に来たのよ?」 「人助けだ」  僕はあの事件後、いろんな人の優しさに触れていながら、何の恩返しもできなかった。髪を短く切った僕は、少しずつでいいから、昔の自分に戻りたい、そう思うようになっていた。初めの第一歩が、馬術部への入部だ。
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