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コンコンコンと、部室のドアをノックした。もう、後戻りはできない。
「失礼します」
ドアをそっと開けると、優作さんが笑顔で迎えてくれた。
「大知くん、彼女?」
「いえ。幼なじみですが、一緒に入部希望……」
「ちょ! ちょっと、大知くん!」
いきなり『入部希望』なんて言われた理沙が、僕を肘でつついた。
「どうぞ! こちらで入部届、書いてね」
僕は、黙々と入部届を書き始めた。その隣で理沙が、優作さんに視線を送った。
「あの、私、全くの素人ですが」
「大丈夫! 親切丁寧に指導しますよ! こちらの部長は、県大会で入賞したこともあるし」
宇治さんは部長だったようだ。てっきり、優作さんの彼女かと思っていた。
「入部届を書いてもらったところで、自己紹介タイムです。私は、獣医学部三年の宇治美園です。こちらが八幡優作さん、こちらが亀岡優花さん、こちらが船井英二さん」
部長がテンポ良く、他の部員を紹介した。亀岡さんは控えめな感じの女性で、船井さんはナルシストを絵に描いたような男性だった。優作さんが僕に視線を送った。自己紹介をしろということだろう。
「獣医学部一年の綾部大知です。よろしくお願いします」
「あっ、同じく一年の宮津理沙です。乗馬は全くの初心者なんですが。よろしくお願いします」
ふたりが挨拶をすると、パラパラと拍手がおこった。
「手取り足取り指導するからね、理沙ちゃん」
さっそく船井さんが、理沙の手を握った。宇治さんが不快感を露わにしてチッと舌打ちをした。
「人数も少ないことだし、みんなで仲良くやろうね! オレのことは、名前で呼んでいいからね」
優作さんが、尖った空気を和らげるように、にこやかに笑った。
「オレのことも名前で呼んでね、理沙ちゃん」
「……はぁ……」
さすがの理沙も、明らかな作り笑いを浮かべていた。こうしてふたりは、馬術部に入部した。
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