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いやいや、母ちゃん、外を見ろ?!
吹雪だぞ、絶賛真っ白な世界だぞ? しかも、もう18時過ぎちゃってんじゃん?
ニャンチュールぐらい明日でいいだろ、と母ちゃんの話を無視しようとした時だった。
「にゃあん?」
俺の膝の上に、風太が足をかけ見上げてきた。
風太は、ニャンチュールが何なのかを心得ている。
いつもは、ふてぶてしい顔をしているというのに、こんな時だけは目を真ん丸にして小首を傾げるのだ。
あざとさを前面に押し出した可愛い顔でじっと俺の目を見て、もう一鳴き押しの「にゃあん」、人間の言葉に訳せばこんなことをお願いしているに違いない。
『虎太郎よ、下僕の虎太郎よ。風ちゃんのために、ニャンチュール買ってきてくれにゃい? お願いにゃん』
スリスリと俺の膝に顔を摺り寄せてくる、普段は母ちゃんにばっかりくっついてるくせに。
ああ、もう! この顔には、敵いっこない。
「はいはい、行ってきますよ。ちょっと待ってろよな?」
大きなため息をつきながら、風太の頭を撫で立ち上がり、ジャンバーを着てスノーブーツを履く。
出かけようとしている俺を玄関まで出てきてチラリと見送った母ちゃんが言ったのは、今にして思えば重要なことだった。
「手袋と帽子くらいしていけば?」
「いや、往復で30分もかからんし。すぐ戻るわ」
スーパーまでの道、走れば5分。されど、この吹雪じゃ走れないから10分だな。
で、10分で行ったさ?
ニャンチュールも無事に購入して、ポケットに突っ込んで帰路についたさ?
でも、その後5分で遭難するとか、思ってもなかったんだよ!
遭難するってわかってたら、もうちょい重装備で出掛けたっつうの!
ああ、そうだった、思い出したわ。全部が風太のせいじゃなかったや。
あの猫のせいだ。
山吹色の猫のせいだ。
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